こんにちは
うめころです

ついにこれ以上の治療は出来ないと医師から告げられた

病状の進行に伴い
もうこれ以上の処置が難しくなっていたのだ

母は延命措置はしないと決めていた

いよいよ私達は覚悟を決めなければならなかった

ある日突然大切な人を失う人もいる
それに比べたら私達は心の準備をする期間があるだけ恵まれていると思いたかったけれど
やはり悲しいものは悲しいし
恐ろしかった

ある晩
仕事帰りに全員でお見舞いに行った

母は医師と話をしに出て行った

昨晩父は吐血したらしい

久しぶりに見た父はまた痩せてしまっていた
私達が来た事を喜んでくれて
あれこれ話しかけてくれた

妹は
大丈夫だよ
すぐ元気になれるよと笑顔で父を励ましていた

母も妹も本当に強く優しい人間だ


私は
父の先がいよいよもう短い事を知って
何も言葉が出なかった

父を妹のように励ましたくても
言葉が何も出てこなかった

それどころか
父の顔を見ただけで涙が溢れそうになってしまい
必死に堪えるので精一杯だった

口を開けばきっと泣いてしまう

父はそんな私の表情をみて

今日はもう帰りなさい
お父さんもちょっと疲れた

菩薩のように笑って
そう言った

その父の優しい声を聞いただけで
涙は堪えても心は既に泣いていた

俯きながらわかったとだけやっとの思いで声を絞り出し

私はすぐに父に背を向けた
大粒の涙が頬を流れ落ちた

病室を出るまで嗚咽は必死に堪えた


そして
これが父と交わした最後の言葉になった

この後父は昏睡状態に陥り
数日持ち堪えたけれど
亡くなる時まで2度と目を覚さなかった

私のせいだと思った
母と妹が必死に隠していた秘事を
私が上手く出来なかったせいで
気付かせてしまった
父の心を折ってしまったと思った

私はちっとも上手く出来なかった
隠せなかった

父はもう自分が助からないと薄々感づいてはいたとは思うけど
母や医師を問い詰めることはしなかった

知るのが怖かったんだと思う

私が分らせてしまった

あの時の父の優しい顔を今でも思い出す
それでも私はあの表情の意味を未だにつけられないでいる

父はあの時
何を思っていたのだろう

私達が部屋を出た後
自分がもう生きられないと知ってしまって
どれだけ恐ろしかっただろう

もう
謝る事も出来ないのに

私は今でもこの事を悔やんでいる
母にも恐ろしくて聞けずにいる

父の最後をどうか心穏やかにと母と妹が感情と涙を堪えて必死で踏ん張ってきたものを
私が台無しにしてしまった

もう父はいない
いないのに

続く